最終更新日 2025.4.21

事業・マーケティング課題を解決するPRの可能性 ―嶋 浩一郎(博報堂執行役員)が語る|ウェビナーレポ―ト(前編)

2024年10月31日、企業/商品ブランドの価値向上をテーマに新しいPR活動に関するウェビナーを実施しました。課題を抱えている企業が多いなか、企業とメディア双方の効率的・効果的な情報発信ができる新サービスということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。 

ウェビナーでは、梅乃宿酒造の広報から石塚氏、元通信社記者の中村氏を招き、事業/マーケティング課題を解決するPRの可能性や、記者・広報双方から見たEspresso Hubの活用方法などについて、現場目線で語っていただきました。

また、PRに長く携わる博報堂執行役員の嶋からは、事業/マーケティング課題を解決するPRの可能性について語り、Espresso Hub事業責任者の博報堂の北川がファシリテーターを務めました。

広報活動に課題を抱えている方へ
博報堂では、広報と記者をつなぐ取材マッチングプラットフォーム 「Espresso Hub」を提供しています。企業とメディア双方の効率的・効果的な情報発信を支援します。

目次

PR(Public Relations)の直近のトレンド

嶋 浩一郎(博報堂執行役員) 聞き手:北川 佳孝(博報堂)

北川 本日はよろしくお願いします。まず、PR(Public Relations)の直近のトレンドについて、お聞かせください。

 PRと聞いて、まず皆さんは何を思い浮かべるでしょう?

おそらく多くの人が、メディアに情報提供して記事を作ってもらうこととか、番組にしてもらうとか、主にパブリシティを思い浮かべると思いますが、今回、第二部で紹介させていただく「Espresso Hub」というサービスは、そんなパブリシティ獲得のための重要な武器になることは事実です。

ただ、パブリックリレーションズという概念自体は、大きく言うと、企業が、社会はじめ、いろんなステークホルダーと合意形成していくことを意味します。この合意形成=パブリックリレーションズが、今、企業のブランディングにおいて重要になってきているというお話を最初にしたいと思います。

「市場の中の私を語る時代」から「社会の中の私を語る時代」へのシフト

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 まず言えるのは、「市場の中の私を語る時代」から「社会の中の私を語る時代」にシフトしてきているということです。つまり、自分の企業を紹介するときに、こんな商品を作っていますと語る時代から、社会の中でこんなふうに役に立つ企業ですと紹介する時代になっているということが言えると思います。

たとえば、ある会計ソフトを作っている企業が、“私たちの会計ソフトは安価で使い勝手が良い商品です”(市場の優位点)と紹介するよりは、“私たちの会計ソフトを使っていただくと、労働時間が短くなって、働き方改革を推進することができ、ひいては日本経済の発展に寄与します”(社会において担う役割)と紹介したほうが、より受け入れられる=モテる時代になってきているのです。

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これには色んな要因が考えられますが、サービスや商品がコモディティ化してきたことと、Z世代を中心として、社会的責任を果たす企業に対する注目が高まっていることが挙げられます。

メディアも、単に商品スペックの良さを伝えるのではなく、社会的視点で企業や商品を紹介したいと考えています。つまり、サステナブルな文脈で、社会や家庭・家族などのコミュニティにとってどんなメリットがあるのかを伝えたいわけです。

マルチステークホルダーの重要性

 もうひとつ感じるPRを取り巻く変化として、「マルチステークホルダーの重要性」ということが言えます。それはまさに、Public Relationsというふうに最後に“s”がついているところにも表れています。

マーケティングは生活者と商品・サービスの関係を良好に構築することを目指しますが、PRが対峙するのは、行政やアカデミアの世界など、さまざまなステークホルダーです。しかも、ダボス会議でも、これからの企業は生活者だけを見るのではなく、多種多様なステークホルダーを意識することが重要だと言われています。

北川 そのマルチステークホルダーですが、どうやって探せばいいのでしょうか?

嶋 例えば、ライドシェアの促進というテーマであれば、行政や観光のオーバーツーリズムの問題から入るのがふつうですが、こんなプレーヤーが関わると良いのではないかと考えるのがPRパーソンの視点です。

たとえばクルマ雑誌がライドシェアで稼げる車種を取り上げるとか、ライドシェアに役立つアイテムを開発して売り出すとか、何か世の中で新しい習慣や新しいライフスタイルが始まるときには、様々なプレーヤーがそのことに向けて活動や発言をしていくことが重要です。

例えるなら星座の星のように、様々な人が同じ目的のためにつながって行動することで、新しいライフスタイルや価値が定着していく。それを実現するステークホルダーを探し出し、一緒に推進していくのがPRパーソンの役割だと思います。

PRに重要な「同じを見つける視点」

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北川 なるほど。マルチステークホルダーというのは、いろんな立場の人の考えや価値が同じ方向に繋がっていって、社会ごと化されていくことを意味するわけですね。

 ですからPRは、「同じを見つける視点」が重要になります。広告コミュニケーションは“この商品はここが素晴らしいです、今までと違います”ということをアピールすることで評価されますが、PRはどちらかというと、“ここ皆さんと同じ目標で動けます”というように、同じを見つけることで機能すると思うのです。最大公約数的であり、多面的であるのがPRの特徴だと思います。 

信頼できる情報発信源としてのメディア

北川 ありがとうございます。では、次に、今回のメインのテーマでもある「ブランディングにおけるメディアの役割」についてお聞きしたいと思います。

 最初にも述べたように、やはりPRパーソンにとっての大きい仕事はパブリシティだと思います。とくに日本においては、マスメディアの影響力は無視できません。ですから、そのメディアを味方にして商品やサービスを普及させていくことはすごく重要なことです。

今、SNSなど個人の情報発信が進んでいますが、タイムラインで話題になることの元々の発信源は、マスメディアからの情報がほとんどです。つまり、信頼できる情報発信源=メディアということは、誰もが認めることだと思います。

「社会記号」を生み出すメディア

 その中でも僕が注目しているのは、「社会記号を生み出すのがメディア」だということです。社会記号というのは、みんなが知っているけど辞書には載っていない言葉です。

たとえば、ワーケーション、グランピング、リモート勤務、二拠点生活、朝活、腸活、就活、これらの言葉はすべて、新しい価値観や新しいライフスタイルとして理解されている言葉ですが、こうした言葉を作って発信しているのが今日のメディアです。

メディア業界の皆さんには、社会の変化や世の中のトレンドを追いかけ、それをキーワード化したいというインサイトがあります。特にニュースに携わるジャーナリストには。しかも、この社会記号はマーケティングと深く関わっていると思うのです。

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 たとえば「おひとり様」という社会記号を例にとると、それまでネガティブに捉えられていたシングルの生活者=実践者が注目され(スターになり)、私もひとりで行動したいというフォロワーが生まれ、それまで冷たい視線を向けていた社会が寛容になる。

メディアも経済誌などで「おひとり様特集」を組んで新たなビジネスチャンスとして取り上げ(報道)、おひとり様向けの新たな市場が生まれる。そんなことが社会記号を契機として動いていくわけです。

ですから、社会記号を生み出すメディアとうまく付き合っていくことは、企業のブランディング、マーケティング活動を推進する上において、とても重要なことだと考えます。

コンサルタントとしてのメディア

北川 そうしたメディアの皆さんとどう向き合っていくのか、どう関係を作っていったらいいのか、教えてください。 

 長年、メディアの方々とお付き合いしてきた感覚からすると、パブリシティをしていただく情報発信のプレーヤーとしての側面はもちろんですが、メディア業界の社会やトレンドの専門家としての知見はとても大きな強みだと思います。 

たとえば、カルチャー誌の担当者がラグジュアリー富裕層のライフスタイルに詳しいとか、女性誌の編集者が最近の子育て事情に詳しいとか、僕たちがビジネスをする上で役に立つ情報や知見を数多くもっています。

日頃の相談相手として、こうしたメディアの専門家と関係を作り、意見やヒントを得ることはPRパーソンにとって、大きな武器になると思います。

北川 具体的に、関係構築のコツやヒントはありますか?

 やはり、一対一の関係性で信頼関係を作っていくことはすごく大事なことだと思います。相手から情報をいただくだけでなく、こちらも市場に関する情報源として信頼される関係を作っていくことが必要です。

しかも、企業のブランド担当者として、組織の代表としてではなく、個人としてのOne to Oneの関係を意識すべきだと思います。情報が欲しい時にだけ連絡を取るのではなく、恒常的にコンタクトを持ち、こちらの情報も提供する。そんな心がけも必要です。

もうひとつ、それぞれのメディアには“人格”があるので、それはある程度、勉強したほうがいいですね。そうすれば、相手も胸襟を開いて話してくれます。“この商品を御社のメディアに載せてください”という文脈でしか話せない人は、難しいと思います。

北川 嶋さん、貴重なお話をありがとうございました。

 

レポート後編はこちらから⇒記者の視点、広報の視点。双方から見たEspresso Hubの活用方法|ウェビナーレポート(後編)

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