2024年12月5日、AIを活用したCX(顧客体験)改革をテーマにウェビナーを実施しました。ビジネスにAIをどう活用していくか関心が高まる中、博報堂独自のノウハウで生成した生成AIサービスを解説するということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。
ウェビナーでは、博報堂の顧客体験設計の専門家2名が登壇。効率化を超えたAIの活用事例について語ってもらいました。後編の本記事では、ストーリテリングAIの活用例や具体的なアプローチ方法などについてご紹介します。
目次
ストーリーテリングAIで変革する3つのビジネス領域
マーケティング企画立案で活用例(食のサブスクアイデア検討)
まず、新市場を開拓する商品ストーリーをご紹介します。新たな機会を狙える、顧客にとっての未充足のニーズを発見し、高速仮説で検討していきます。
市場機会の探索は、AIを活用して仮説を生成します。その生成に関しては、以下の流れでAIが行ってくれます。
- 市場・商品情報のリサーチ
- 顧客ペルソナ
- インサイトの抽出
- 提供価値の見極め・コンセプト作り
- プロポジション
- ビジネスモデル
私たちはまず、AIが出した仮説を検討するところからスタートさせます。
具体的に「食の新しいサブスクアイデア」という課題に落とし込んでみましょう。「顧客の機会」としては、いろいろチャンスが考えられますが、今回は「家庭で食育したい」というニーズに絞って、AIがストーリーを考えていきます。
アイデアの可能性を検討するストーリーは、以下の流れで生成されます。
- 提供価値・アイデア
- ストーリーのコンセプト
- 主人公インサイト
- 体験ジャーニー
- 利用シーン
- メリットや感情の変化
今回は次のようなストーリーが生まれました。
- 「食材を通して、忙しい家族の笑顔の団欒を提供」というコンセプト
- 「忙しくても家族の時間を大切にしたい」という主人公インサイト
- 「季節の食材で盛り上がる」という体験ジャーニー
- 「おいしく、栄養と健康を学ぶ充実した時間」という利用シーン
- 「一緒に料理して、家族で役割を感じ、協力する喜びをおぼえる」というメリット
さらに、LTVを高めるための継続ストーリーを検証することもできるのが、このアプローチの特徴です。
収益性やロイヤリティ、実現可能性など、成功のポイントも明確になりますし、AI主人公とブレストしながら、一緒にアイデアをブラッシュアップすることもできます。ローンチに向けては、リアル調査でビジネスの確実性を高めることも可能です。
このように、数字だけではわからない、顧客のイメージを描きながらビジネスを考えられるのが、ストーリーテリングAIというアプローチの大きな価値だと考えます。
加えて、パーソナライズしたストーリーは、チームが顧客に共感しながら楽しく企画を練りあげていけますし、結果的に顧客とブランドの繋がりを強めることにも寄与します。
Q&A

武藤
AIとの共創ということですが、具体的にAIの担う領域と、人の担う領域に関してお話しいただけますか?

池田
基本的には、AIも人も「洞察~発想~創造」というプロセスを一緒に担うわけですが、私たちのアプローチは、まずAIに仮説=ある種の結論を出してもらって、そこから議論をスタートさせるという方法を採っています。
そこで出された仮説を受け取って、誰にどういう価値を提供していくのかということを、人が考えていきます。いわば、可能性のあるインサイトを人の目で発見していきます。
言語モデルのAIもある程度、人の心を読むことはできますが、やはり見立てとか感情分析になると、人の能力に及ばないところはあるので、そのクリエイティブな領域は、人が担うことになります。

武藤
なるほど。AIのポテンシャルと、博報堂チームの発想力やプラニング力の掛け算で、新しい価値が生まれていくわけですね。
あと、お話の中では、新商品やサービスの例が語られていましたが、既存商品に関しても活用できるのではないかと思いました。
営業の提案力を高めるための活用例(営業DXツールの提案シナリオ)
営業の提案力を高めたいというニーズに対しても、ストーリーテリングAIは活用できます。具体的に「コンサル型の提案力を強化して、顧客ごとにパーソナライズした提案を行いたい」という課題に関して考えてみましょう。
今回もストーリーは、次の流れでAIが生成します。
- 提供価値・アイデア
- ストーリーのコンセプト
- 主人公インサイト
- 体験ジャーニー
- 利用シーン
- メリットや感情の変化
具体的に落とし込むと、以下の流れでストーリー化できます。
- 「チームで実現する営業スタイル」(提供価値)
- 「営業力を強化し、チームで楽しむ文化の提供」(コンセプト)
- 「バラバラな営業スタイルに悩むチーム」(インサイト)
- 「営業DXツールを導入して営業プロセスを統一する」(体験ジャーニー)
- 「チーム全体でフィードバックを行いながら改善点や学びを共有」(利用シーン)
- 「データをベースにした提案が根付き、メンバー一人一人が最適な提案を、自信をもってできるようになる」(メリット)
CRMで継続利用を促進させるための活用例(EC販売のAIコンシェルジュ)
次のケースでは、「AIコンシェルジュ」を活用して、お酒の利用シーンのポテンシャルを検討してみます。お酒も色々な種類、利用シーンが考えられます。
ECサイトもただお酒を売るだけでなく、パーソナライズした提案や独自の顧客体験を提供することが求められています。
現状でもチャットボットなど進化したリコメンドサービスはありますが、今回のケースでは、専属の「AIソムリエ」を想定して、ECで購入して、家に居ながらにして秋田を旅する気分が味わえるというストーリーを考えてみました。
前回同様、ストーリーの流れは以下のようになります。
- 「新しい味覚や文化の体験」(顧客価値)
- 「旅する晩酌体験」(提供価値)
- 「日々の一杯で、文化と味の出会いをあなたに」(ストーリーコンセプト)
- 「時間がない中で異なる地域の味覚や文化を体験したい」(主人公のインサイト)
- 「秋田の地酒をレコメンド」(体験ジャーニー)
- 「郷土料理といっしょに味わう秋田の夜」(利用シーン)
- 「家にいながらにして旅ができる楽しさが習慣に」(感情の変化)
このストーリーでは「AIソムリエ」というエキスパートが専門知識を駆使して、地酒と土地の名物を提案することで、顧客の心をくすぐり、顧客は今までにない体験を楽しむことができます。
また、こうしたサービスは、違った土地(京都やフランスなど)での体験も期待させ、ECサイト利用のリピートにもつながります。
Q&A

武藤
今ご説明いただいた営業DXとCRMの例は、いずれのアプローチも支援の幅が多岐にわたっていると思うのですが、それぞれ誰がどのような目的でアプローチするのか、実際の使われ方の違いに関して、具体的にお話しいただけますか?

池田
確かに、ストーリーテリングAIと一言で言っても、活用や支援の幅は広く、イメージがつかみにくいかもしれません。ですが、例えばマーケティングのパートに関しては、私たちとクライアントの皆様がプロジェクトチームとして一緒に、AIストーリーを活用して企画を作っていきます。
新商品や技術イノベーションのようなテーマはもちろん、既存商品のマーケティングに関しても、サイト開発、プロモーションなど、今まで以上にスピーディーに精度の高い企画を練り上げていけます。
営業DXの場合は、営業の皆さんに使っていただけるストーリーテリングAIを、私たちが開発・納品して、AIを日常的に使っていただける環境を支援するというのが基本のフレームになります。セールス支援の他にも、業務の効率化や新人研修など、活用の可能性は広いと思います。
CRMに関しては、基本的にユーザーであるお客様に使っていただきます。問い合わせやサイトの回遊で生じる疑問などに答える機能を、AIコンシェルジュが担い、いわば顧客に対する“おもてなし”を充実させることができます。
もちろん、これら一連のプロセスはマーケティング活動ですので、データやインサイトの分析に関しては、私たちの知見もしっかり生かして対応します。

武藤
あらためて、ストーリーテリングAIは、様々な課題に応えていけるアプローチなのですね。

池田
それと同時に、一つひとつの課題に対して、最適なストーリーを生成できるAIを提供しているので、どんなストーリーを描きたいのかというアイデアを皆さんからいただきながら、AIの可能性を一緒に広げていけると思います。
池田 いきなり大きなプロジェクトでなくても、身軽にスピーディーにご支援できるので、お気軽にお問合わせください。
武藤 本日はありがとうございました。
プロフィール
池田 善行
博報堂 エクスペリエンスクリエイティブ局 エクスペリエンスクリエイター
顧客体験(CX)社員体験(EX)の両面から体験をつくり、社員の創造性を高め、顧客とのつながりを深め、事業価値の向上を支援する、体験クリエイティブを専門としている。オンライン・デジタルの体験づくりの実績を有し、幅広い接点での体験デザインを、統合的にカタチにするクリエイター。
武藤 重近
博報堂 エクスペリエンスクリエイティブ局 クリエイティブビジネスプロデューサー
テクノロジーを起点に事業・サービス領域のビジネスデザインを推進するクリエイティブプロデューサー。営業部門経験を経て、現在はクリエイティブ部門にてコマース領域におけるビジネスデザインを見据えた顧客体験の設計から実装までを推進。DX推進を目的とした外部パートナー協働プロジェクト立ち上げにも従事。
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。