最終更新日 2024.4.5

ウェビナーレポート|AIで見える化!パーパス共有の実態~「味ぽん」が挑んだ、SNS“声”分析~ (前編)

2024年1月11日、パーパスの策定および実践をいかにビジネス成果に繋げるかをテーマにウェビナーを実施しました。課題を抱えている企業が多いなか、実際にブランドの新たな価値創出に取り組んだ現場担当者の事例紹介ということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。

ウェビナーでは、発売60周年のロングセラーブランド「味ぽん」のブランド担当者 株式会社Mizkanの伊山氏が登壇。大量のSNSデータをAIで分析することで、ブランドの潜在的な新たな価値を発見できたという「パーパス・アクション・サイクル 」を活用した取り組み事例について語っていただきました。

本記事では、ウェビナーの内容から、企業のパーパス・ビジョンの現状と課題、「パーパス・アクション・サイクル」の開発背景、「味ぽん」での活用事例などについて前後編に分けてご紹介します。

登壇者(登壇順、敬称略) 

山田 聰(博報堂ブランド・イノベーションデザイン) 
和泉 舞(博報堂ブランド・イノベーションデザイン) 
伊山 裕人(株式会社Mizkan マーケティング本部) 

パーパスにもとづく組織づくりや事業活動にお悩みの方へ
博報堂グループでは、パーパス策定後の浸透状況をビッグデータ×AIで 定量的にスコア化し、アクションを開発するプログラム「パーパス・アクション・サイクル」 を提供しています。ブランディングや組織づくりに課題を抱えている方は、ぜひサービス詳細をご覧ください。

目次

山田 社会やビジネスの不確実性が高まる現代において、社会的使命とビジネスを両立させることを明確にしたパーパスやビジョン、ブランドコンセプトを策定する企業が増えています。しかしその一方で、パーパスを実装に繋げることが難しいという悩みを抱える現状もあるのではないでしょうか?

今回のウェビナーでは、企業やブランドのパーパスやビジョンコンセプトについて、実は生活者や従業員の声をしっかりと聞けていないのではないか、パーパスやビジョンコンセプトが作りっぱなしになっていて、アクションに繋がっていないのではないかという課題と、その解決について考えていきたいと思います。

本日はまず、一般的なパーパスやビジョンの現状と課題についてお話をさせていただき、その解決として開発された、博報堂独自の「パーパス・アクション・サイクル」というソリューションをご紹介させていただきます。続いて、ミツカンの伊山さんから、基幹ブランドである「味ぽん」での取り組みをお話しいただき、最後に、インナーブランディングでの活用ケースのご紹介、3名でのショートディスカッションという流れでお送りします。 

はじめに~「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」のご紹介 

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山田 まず、私と和泉が所属する「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」という組織ですが、その名のとおり、ブランディングとイノベーションの専門組織で、広告に限定せずに、ブランドとイノベーションに関する多様なソリューションをご提供しています。ストラテジーとクリエイティブを中心に、多様な専門性を持つメンバーから構成されていて、博報堂の企業フィロソフィーである生活者発想をコアにしながら、クライアントとの共創で業務を推進しています。

また今回のウェビナーでは、ブランドについてのお話が多くなってきますので、簡単にブランドに関する一般的な言説についてお話させていただきます。ブランドには、いろいろ定義がありますが、私たちは、“生活者が名前を聞いたりロゴを見て、頭の中に思い浮かべることのできる連想の全て”ととらえています。

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つまりブランドは、生活者の頭の中の構造そのものであり、生活者の体験を通じて作られるものと言い換えることができるかもしれません。今回のウェビナーでも、そうした生活者の思考や認識の源泉を探求していきたいと思います。

ブランドに関しては、高度経済成長期から現在に至るまで、その力点はいろいろな変遷をたどってきましたが、昨今注目されているのが、「共創としてのブランド」です。つまり、ブランドは、企業と生活者の共有のもので、企業と生活者が一緒に作っていくものであるという考え方です。

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併せて、博報堂では、「ブランド・トランスフォーメーション(BX)」ということも提唱していて、ブランドを起点とした事業変革を推奨しています。BXは、いわゆる広告コミュニケーションに限らず、様々な領域での変革が連動して行われることが特徴ですが、中でも重要になるのが、ブランドのコンセプトやビジョンを集約した「パーパス」です。

次は、今回のウェビナーの本題とも言える「パーパス」について、その現状と課題を和泉からお話させていただきます。

パーパス・ビジョンの現状と課題~「パーパスつくりっぱなし問題」

和泉 昨今、パーパスという言葉を耳にする機会が多いと思いますが、博報堂ブランド・イノベーションデザインでは、「組織や企業ブランドの社会的な存在目的。事業を通じて作りたい社会の姿と、そこでのブランドや自社の役割を表明したもの」ととらえています。つまり、 パーパスは、企業や事業と社会的な価値との繋がりを表明したものと言えます。

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パーパスを策定する際には、「創り出したい未来の社会の姿」と「その社会における自社の役割」という2つの視点で構想します。言い換えれば、事業を通じてどのような課題を解決して、どのような社会を作りたいのかをディスカッションしていくイメージです。

未来の社会での自社の役割で、自分たちはどのような価値を発揮しうるのかを、独自の強み、資産、商品・サービス、ビジネスモデルなどと照らし合わせながら考えていきます。こうしたアプローチで生み出されたパーパスは、ブランド・トランスフォーメーションの起点となり、さまざまな事業変革をドライブしていきます。

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近年、CEOをはじめとした多くの経営層が、パーパスを重視しているという統計があります。 特に、顧客、従業員、投資家、コミュニティを含む全てのステークホルダーに長期的成長を約束するために、あらゆる活動にパーパスを組み込むことが大事であると考えるCEOが増えています。

従業員におけるパーパスの浸透状況を見てみると、自社のパーパスについてとくに違和感はないという従業員が3割いる一方で、それ以外の7割の人たちが、何となくモヤモヤしたものを感じているというデータがあります。

たとえば、(パーパスの)表現が一般的すぎる、わくわくを感じない、ビジョン・ミッション・バリューといった他の理念との違いや位置づけがわからないなどなど、パーパスに関して違和感を抱く従業員が一定の割合でいるという現状が浮かび上がってきています。これはつまり、パーパスの浸透に関して、理解や共感、自分ごと化がうまくいっていないということの顕れであることがデータから見てとれます。

私たちは、こうした課題を「パーパスつくりっぱなし問題」と名付けました。せっかくパーパスを作ってブランド価値を規定したのに、それが金科玉条として飾っておくだけのものになっている、ブランド・トランスフォーメーションに繋がっていない、という問題です。

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さらにブレークダウンして言いますと、大きく2つの問題があります。1つはビジネスアクション、つまりパーパスがビジネスで活用できていないという問題です。具体的には、パーパスが経営戦略や事業戦略と統合されていない、パーパス規定の事業開発や経営改革が生まれていないということの他に、社員の行動やモチベーションに繋がっていないという問題があると思います。

もう1つは、コミュニケーションの問題です。パーパスが社内外と共有できていない、そもそも社内外にパーパスが浸透していない、社内外への発信共有の仕方がわからない、コミュニケーションはしたけれど効果がわからないといった課題があります。

こうした「パーパスつくりっぱなし問題」の根っこには、企業やブランドが目指すところや魅力、生活者や世の中に実現できる価値がきちんと伝わっておらず、またそれを伝えるためのアクションが不足しているという現状があります。これは、パーパスやビジョンなどの言葉を使っていない場合にも当てはまる、企業やブランドの本質的な課題だと私達は考えています。

こうした課題を解決するためのひとつの方法として、私たちが開発したのが、今回ご紹介する「パーパス・アクション・サイクル」です。その具体的な内容について、山田から説明させていただきます。

「パーパス・アクション・サイクル」とは

山田 パーパスには、少なからず社会との繋がりという要素が入ってきていると思うのですが、パーパスに関する生活者や社会の声が、実はしっかり聞けていないのではないか、それをもとにアクションを作れていないのではないか。そうした課題意識が、これからご紹介する「パーパス・アクション・サイクル」を開発した出発点にあります。

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「パーパス・アクション・サイクル」の根底にあるのは、「LISTEN」と「ACTION」です。まずパーパスについてきちんと世の中の声を聞いて、何が伝わっていて何が伝わっていないのか、どういうところに可能性があるのかということに耳を傾ける=「LISTEN」が大事なのではないかと考えています。

さらにそこから、アクションを考えていくために、「パーパス・アクション・サイクル」を開発したわけですが、このソリューションは、パーパスの社内外での共有状況をAIでスコア化し、可視化することで、ブランド・トランスフォーメーションのアクションに繋げていくことを目的にしています。

パーパス策定後の、企業の課題解決を支援するためのパーパスの効果検証とアクション開発プログラムとご理解ください。

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具体的なステップについてご紹介させていただきます。このソリューションは3ステップで考えています。

まず1つ目は、パーパスの価値軸を規定するというステップです。これは具体的には、パーパスを構成する価値の要素をいくつかの軸として整理していくというものです。通常、パーパスは社会に対しての約束ということで、いろいろな要素から構成されていることが多いですが、その要素をいくつかに分解して、価値軸として整理していきます。

pac_09この検討の際に大事なのは、未来に実現すべき価値も含めて検討していくことです。パーパスは、これから実現したい価値を表現していることが多いので、現状の価値だけではなく、新たに付け加える価値も含めて、価値軸を設定するということがポイントになってきます。

次に、整理した価値の軸をAIによって分析する、AIリスニングというステップに進みます。ビッグデータとAIを活用して現状を把握するわけですが、SNSでの発話、ブログ、アンケートなど、あらゆるテキストデータをスコアリング・可視化して、パーパスの社内外への浸透度を把握します。

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たとえば、ステップ1で規定した価値軸が7つあるとすれば、SNSで投稿されている生活者のテキストデータをAIで分析して、その7つの価値軸の中のどれが反映されていて、どれが反映されていないのかを測ったり、どのぐらい語られていて何が発言されていないのかということを分析します。従業員アンケートの自由回答やお客様からの声、自社から発信しているプレスリリースなども分析の対象になります。

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このように、定性的なテキスト、定性的な人の発言をAIに読み込ませて、スコア化して、パーパスの世の中での語られ方を検証していく手法になっています。何が伝わっていて何が伝わっていないのかを価値軸であぶり出せると同時に、時系列で変化を見ていって、浸透の状況をモニタリングできるので、自分たちで発信していることと共有されていることの比較をして、そこのギャップを定量的に可視化できるので、パーパスを作りっぱなしにせずに、有効に活用していくことができます。

3つ目は、こうした分析を踏まえて具体的なアクションを創出していくステップです。具体的には、博報堂ブランド・イノベーションデザインのコンサルタントやクリエイターが、具体的な打ち手を一緒になって考えます。さらに実際のアクションをモニタリングしてブラッシュアップしていくことも可能です。

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企業、社会との双方向の持続的なコミュニケーションが可能になって、真の意味でのパーパスの実践を推進できると考えています。このソリューションを活用いただくことで、生活者や社会とのパーパス共有が進み、企業の組織風土の変革が進んでいくことが期待できます。軸にすべき価値を明確にした上でアクションを考えるので、強いメッセージはもちろん、インパクトがあるアクションを打ち出すことができると考えています。

ステップ1から3までの3段階を進める場合、約5か月の実施期間を想定していますが、パーパスやミッションを策定して、これからどのように動いていくかということを検討されている企業や、パーパスは既に作っているけれどもなかなか活かせていない、浸透や共有に課題感を持っている、あるいはこれからパーパスの策定を進めようとしている企業にも、事後の展開を見据えて検討していくことができます。

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次に、この「パーパス・アクション・サイクル」を実際に活用して、長寿ブランドの新たな可能性を探った、株式会社Mizkan「味ぽん」のケースをご担当の伊山さんからお話いただきたいと思います。

 

レポート後編はこちらから
⇒ウェビナーレポート|AIで見える化!パーパス共有の実態~「味ぽん」が挑んだ、SNS“声”分析~ (後編)

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BIZ GARAGE 編集部

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