2022.10.11

生活者が生み出すイノベーションを事業成長に活用する

今、多くの企業では、未来の社会を見据えたイノベーションが課題となっています。
イノベーションを起こすには、社内に既にある知識を深めるとともに、社外の新しい知識やアイデアを取り入れることが不可欠です。新しい知識・アイデアを取り入れるさまざまな方法がある中で、生活者自身が革新的な商品を開発したり、イノベーションを起こしたりするユーザー・イノベーションの活用について解説します。

目次

ユーザー・イノベーションが注目される背景にある企業課題

近年、さまざまな企業で商品開発プロセスにユーザーのアイデアを活用する方法が注目されるようになりました。その背景には、大きく2つの企業課題があると考えられます。

1つは、商品やサービスの開発者の発想の枠を広げたいというニーズがあることです。ずっと開発の仕事を続けていると、どうしても徐々に思考が凝り固まってしまい、既視感のあるアイデアしか思い浮かばないということが起こりやすくなります。そんなときに発想を広げるための良い方法は、目の前に通り過ぎるアイデアの数を増やすことです。いろんな人のアイデアをたくさん見聞きすることで、発想を広げることができます。

2つめの理由は、お客さんを開発段階から巻き込んでいって、ファンを増やしたいというニーズが企業側にあることです。日々接する情報量、発売される商品の数も増えていく中で、商品間の違いがわからないという状況も多くあります。そんなとき、生活者から商品を選択されるためには、ブランドや企業に対する愛着があることがとても大事です。商品開発のプロセスに参加して、実際に自分のアイデアが採用される、あるいは、採用されなくても開発プロセスを知っているということから、他のブランドより、そのブランドを好きになる確率が高まります。そのような理由から、開発段階でユーザーをどんどん巻き込んでいこうという企業が増えており、ユーザー・イノベーションが注目されているのではないかと思います。

ユーザー・イノベーションとは何か?

ユーザー・イノベーションとは、イノベーションを企業ではなく、ユーザーが生み出している現象のことを指す言葉です。

代表的なものに、マウンテンバイクの事例があります。マウンテンバイクは、もともとは自転車メーカーが開発したものではなく、若者たちが普通の自転車のタイヤを太くしたり、ブレーキを変えてみたり、自分たちのアイデアから自転車の改造を行っていました。そこに目を付けた企業が、後からマウンテンバイクを商品化して、大きな市場が生まれたといわれています。最初のイノベーションが、企業ではなくユーザーから起こる現象が1970年代後半から注目を集めて、ユーザー・イノベーションの研究が盛んになりました。

例えば、最近では我々の周りでも、3Dプリンターを使ってモノをつくるとか、SNSを通じてモノを売る人が増えてきました。もともとイノベーションを生み出すユーザーは以前から世の中に存在していたのだと思いますが、デジタル化によって、よりイノベーティブなユーザーが活動しやすくなり、企業側も見つけやすくなったというのが近年の流れではないかと思います。

ユーザー・イノベーション活用の方法

企業がユーザー・イノベーションを活用する方法は大きく分けて2つあります。1つがリードユーザー法、と呼ばれるものです。もう1つは、クラウドソーシング法というものです。それぞれについて、以下概要を説明します。

リードユーザー法(ピラミッディング)

リードユーザーとは普通のユーザーよりも先進的な人のことを指します。例えばダイエット商品を開発するときに、普通の生活者ではなく、プロボクサーのような減量に関する切実なニーズや、さまざまな工夫をしている人の話を聞くことで発見があるかもしれません。
そのような特別な知識を持つリードユーザーはすごく数が少ないことが研究でわかっており、イノベーションを起こしたユーザーがどのくらい世の中にいるのかについて調べた2011年の調査では、18歳以上の人口の3.7%という結果でした(von Hippel et al., 2011)。その中でも魅力的なアイデアを持ったユーザーはさらに少なく、リードユーザーを見つけるには、工夫が必要です。

そんな貴重なリードユーザーを見つける方法の1つがピラミッディングと呼ばれる探索法です。ユーザーから次のユーザーを数珠つなぎ的に辿っていって、ピラミッドをのぼるように、専門性の高いリードユーザーを探索する方法です。博報堂では独自のネットワークやデジタルツールを活用して、リードユーザーを効率的に発見するノウハウを蓄積しています。

リードユーザー法(ピラミッディング)

クラウドソーソング法

リードユーザー法が専門家をピンポイントで見つける方法であるのに対して、クラウドソーシング法はアイデアをたくさん集めて、後からイノベーティブなものを選ぶという方法です。例えば、アイデアコンテストを行ったり、自社の会員から幅広く意見を集めたりして、玉石混交なアイデアから、有用なものを見つけるというイメージです。

クラウドソーシング法を行う上で重要なことは、参加者からどのようなテーマでアイデアを集めるのか、ということです。「何でもよいからアイデアをください」と依頼しても、有用なアイデアを収集するのは難しく、自分たちにはこういう技術があって、こういう世の中にしたい、そのために皆さんの知恵を貸してほしいという問いかけがあると、生活者の方でもアイデアを生み出しやすくなります。博報堂では、人々が参加したくなり、かつ商品開発のアイデアにつながるような答えを導くための問いの設定からご支援します。

クラウドソーシング法

ユーザー・イノベーション活用の3つの効果

企業がユーザー・イノベーションを活用したときに得られる効果は大きく分けて3つあります。それぞれの効果について、概要を説明します。

製品効果

企業の開発者が考えた商品よりも、ユーザー・イノベーションを活用して生み出した商品の方が、売上げや利益率、製品寿命が長いという研究結果があります(Nishikawa et al., 2013)。また、企業のアイデアよりも、ユーザーのアイデアの方が高い新規性や顧客ベネフィットが見込めるといわれています。なぜなら、ユーザーの方が、発想の枠にとらわれない自由なアイデアを生み出すことができ、顧客のことをよく知っているからです。

プロセス効果

商品開発のプロセスに参加することで、そのブランドや企業への愛着が高まります。面白いことに、アイデアコンテストを行って、自分のアイデアが採用されなかった人ですら、ブランドや企業への興味関心が高まる傾向があります。実際に企業サイトやSNSなどでアイデアを呼び掛けている企業がありますが、そういった企業に対して好意的なイメージを持ったという経験があるのではないでしょうか。開発プロセスにユーザーを巻き込むことで、顧客ニーズに対する企業の傾聴の姿勢を伝えることができます。

ラベル効果

ユーザーと一緒に共創した商品を世の中に出すときに、「ユーザーのアイデアから生まれました」という表示を加えることで、売上げが約2割上がるという研究結果があります(Nishikawa et al., 2017)。店頭や広告などで、ユーザーのアイデアを取り入れていると伝えることで、開発プロセスに参加していない生活者も、このブランドや企業は、生活者の声に耳を傾けていると感じられます。その結果、ブランドや企業の好感度が上がり、商品の売上げが上がるといわれています。

ユーザー・イノベ―ション活用の3つの効果

ユーザー・イノベーションの導入にあたって

お客さんの声を聴くこと自体はどこの企業でもやっていることだと思います。しかしイノベーションを生み出そうとするならば、どのようなお客さんの声を聴いて自社の事業に活かすのかをしっかりと設計しなければ、成果は出ません。数少ないリードユーザーにどのようにすれば出会えるのか、彼らからアイデアを引き出すための最適な問いは何か、商品を販売するときのコミュニケーション戦略にどう活かすのかについては、専門的なノウハウが必要です。

博報堂は、ユーザー・イノベーション研究の第一人者である法政大学の西川先生とともに、産学連携「USER INNOVATION LAB. (ユーザー・イノベーション・ラボ)」を運営し、世界最先端の知識を収集しながら、ユーザー・イノベーションについての研究や実践を重ねています。ユーザー・イノベーション活用の導入を検討している企業のご担当者さま、ぜひ一度私たちにご相談いただければと思います。


<関連リリース・記事>

博報堂、“生活者イノベーター”と企業の共創型開発を支援する 「博報堂ユーザー・イノベーション・プログラム」を提供開始 |ニュースリリース|博報堂 HAKUHODO Inc.

ユーザー・イノベーションの研究と実践の循環を生み出し続ける「USER INNOVATION LAB.」~第一期活動レポート~ |博報堂WEBマガジン センタードット (hakuhodo.co.jp)

法政大学西川英彦教授と深める、「ユーザー・イノベーション」の企業活用 〜イノベーティブな企業のユーザーの捉え方〜 |博報堂WEBマガジン センタードット (hakuhodo.co.jp)

参考文献

Nishikawa, H., Schreier, M., Fuchs, C., & Ogawa, S. (2017). The value of marketing crowdsourced new products as such: Evidence from two randomized field experiments. Journal of Marketing Research, 54(4), 525–539.

Nishikawa, H., Schreier, M., & Ogawa, S. (2013). User-generated versus designer-generated products: A performance assessment at Muji. International Journal of Research in Marketing, 30(2), 160–167.

von Hippel, E., Ogawa, S., & De Jong, J. P. J. (2011). The age of the consumer-innovator. MIT Sloan Management Review, 53(1), 27–35.

岡田 庄生(おかだ しょうお)

岡田 庄生(おかだ しょうお)

博報堂ブランド・イノベーションデザイン局
部長/イノベーションプラニングディレクター/博士(経営学)

1981年東京生まれ。国際基督教大学卒業後、2004年株式会社博報堂入社。コーポレート・コミュニケーション局を経て、現在、ブランド戦略・マーケティング戦略の策定や新商品・新サービスの開発などを支援するブランド・イノベーションデザイン局に所属。法政大学と博報堂による産学連携プロジェクト「USER INNOVATION LAB.」の共同代表も務める。著書に『買わせる発想 相手の心を動かす3つの習慣』(講談社)『博報堂のすごい打ち合わせ』(ソフトバンククリエイティブ)、『プロが教える アイデア練習帳』(日経文庫:日本経済新聞出版社)などがある。法政大学兼任講師、青山学院大学非常勤講師、武蔵野大学客員教授。法政大学イノベーション・マネジメント研究センター客員研究員、武蔵野大学アントレプレナーシップ研究所客員研究員。日本広告学会理事。日本マーケティング学会理事。