2025年1月30日、「マーケットプレイス型EC」をテーマにウェビナーを実施しました。個々の価値観が重要視される現代において、マーケットプレイス型ECを通じてブランドの存在意義をどのように確立し、EC事業を成功へ導くかを紹介しました。
本記事では、ウェビナーの内容から、生活者ニーズの変化と新しいECビジネスの兆し、マーケットプレイス型ECの解説と始め方、そして、HAKUHODO EC+のソリューションなどについてご紹介します。
登壇者
川口 由貴(博報堂 コマースコンサルティング局 ディレクター、HAKUHODO EC+ コンサルタント)
矢野 裕(博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部長、HAKUHODO EC+ プロデューサー)
目次
パーパスで繋がるブランド共創型ECをつくるHAKUHODO EC+について
川口 本題に入る前に、まず私たちの組織「HAKUHODO EC+」について簡単にご紹介したいと思います。「HAKUHODO EC+」は博報堂DYグループ内各社および協力会社のナレッジやスキルを集約して、ECを中心としたコマース領域で得意先企業の事業支援をサポートしている統合型の組織です。戦略のフェーズから実装・運用領域に至るまで、ワンストップでのご支援が可能である点が特徴の1つで、企業のあらゆる課題に対してサポートできるチーム体制を構築しています。
本セミナーのタイトルにある「パーパスで繋がるブランド共創型EC」ですが、これは、ある特定のテーマやコンセプト、世界観に特化したマーケットプレイス型ECのことを指しています。マーケットプレイス型ECは、アマゾンや楽天に代表されるような、1つのプラットフォームの中で多くの事業者が出店・出品をするECビジネスの1つです。
その中でも、ある特定のテーマにフォーカスをしたマーケットプレイス型ECが、本日のタイトルにある「ブランド共創型EC」として、今後のECビジネスの潮流になっていくのではないかと私たちは考えています。
生活者ニーズの2つの変化
川口 現在、インターネット・SNS上で流通するデータ量は飛躍的に増加し、生活者が触れる情報量は加速度的に拡張し続けています。
例えば、ある調査データによると、1分間に約590万もの検索がGoogle上で行われていて、6.6万もの写真がインスタグラム上にアップされています。この数字は2022年の発表によるものなので、2025年の現在ではさらに増えていると予想されます。
情報量が膨大になり、生活者は多くの選択肢に触れる機会が増えました。これにより、単なる商品機能だけでなく、自分に合った体験や価値を求める傾向が強まっています。
自分の好みに合った商品を選びたいというニーズ
川口 博報堂の独自調査からも、例えば肌や自分の体調に合わせた商品を提案が受けられたり、骨格のタイプに合った商品がレコメンドされるといった、いわばパーソナライズされた商品やサービスに、生活者は好感を持っていることが読み取れます。
ある企業の調査結果では、パーソナライズされた商品・サービスに対して、約76%の生活者が購入を検討すると回答しており、個人の嗜好性や好みに合った商品・サービスが、購買意欲自体も高めていくことが示唆されています。
これらの調査結果から、今後、生活者に選ばれるブランドになるためには、従来の画一的なアプローチではなく、個々のユーザーの嗜好性や好みを捉えた顧客体験を提供することが重要になってくることが言えます。つまり現在の生活者には、自分の好みや嗜好性に合った商品を選びたいというニーズがあるわけです。
では、こうしたニーズに対して、ECビジネスはどのように対応してきたのでしょうか。
このニーズに対して、まず受け皿となってきたのがD2Cブランドです。D2Cブランドは、そこでしか得られないブランド独自の世界観や価値を積極的に打ち出し、特定のターゲット層との強い結びつきを生み出してきました。
商品自体の機能だけでなく、理念やパーパスに共感してもらうことで、ファンを獲得し、ロイヤルティを高めるビジネスモデルです。
しかし、D2Cブランドの多くは単一ブランドで展開されるため、生活者が「さまざまな選択肢の中から自分に合ったものを見つけたい」というニーズには十分に応えられていません。
実際、生活者の購買行動にはもう1つ重要な要素があります。それは、できるだけ多くの選択肢の中から商品を選びたいという点です。
できるだけ多くの選択肢から選びたいというニーズ
川口 少し前の調査結果になりますが、博報堂の独自調査からも、「買い物をするときはできるだけたくさんの情報がある方が安心できる」と回答した人が65. 5%にのぼり、「ECにおいて重視するポイントとして、商品の品揃えが豊富」と答えた人が45. 1%という結果が出ています。
これらの数字から、生活者はより多くの情報、できるだけ多くの選択肢の中から商品を選んでいきたいというニーズがあることがわかっています。
ここで改めて生活者ニーズのポイントについて整理をすると、まず1つは、自分の好みや嗜好性に合った商品を選んでいきたいというニーズ、そしてもう1つは、できるだけ多くの選択肢から選んでいきたいというニーズです。この2つの生活者ニーズに対応するためには、単一ブランドの枠を超えて、多様なブランドが集まる場を提供することが求められます。
そこで、新しいECの兆しとして、「コンセプト重視のマーケットプレイス型EC」が注目されているのです。
ECビジネスの4タイプと新しいECビジネスの兆し
川口 では、現在のECビジネスは、どのように分類できるのでしょうか? ここでECビジネスのタイプを整理してみましょう。
横軸に「自社EC」「モールEC(マーケットプレイス)というビジネス形態の軸、縦軸に「マス」「ニッチ」というターゲット軸を設定してみると、
- 「マス×自社EC」:ナショナルメーカーのブランドサイト
- 「ニッチ×自社EC」:D2Cブランドサイト
- 「マス×モールEC」:Amazon・楽天などの大手ECモール
- 「ニッチ×モールEC」
これらの分類の中で、新しいECビジネスの1つとして我々が注目しているのが、ニッチ市場に特化したモールECです。これが、今回のウェビナーのテーマでもある『コンセプト重視のマーケットプレイス型EC』にあたります。
コンセプト重視のマーケットプレイス型ECのメリットですが、生活者視点では、生活者が自分の嗜好性や好みに根ざしたブランドと、新しく出会えるという点です。
しかも単一ブランドではなく、様々な事業者が出品しているので、より広い選択肢の中から自分の嗜好性に合ったものを選べることが大きなポイントです。同時に、商品選択のストレスから解放されることもメリットです。
一方、ブランド視点では、自社が提供している価値や世界観に共感するユーザーとの出会いを創出できること、新規潜在顧客により広範囲にリーチできることがメリットとして挙げられます。
このようにコンセプト重視のマーケットプレイス型ECは先に述べた2つの生活者ニーズの潮流とも合致しており、かつブランド側のメリットも大きいため、今後より一層の成長が期待されます。
そして、コンセプト重視のマーケットプレイス型ECは、独自のパーパス・世界観、特定のテーマを核に「ブランド」「生活者」「情報」が集まることで、マーケットプレイス自体がある種の共同体となります。複数のブランドが競争ではなく“共創”することで、生活者に対して新しい価値を発揮していく可能性を秘めています。
私達はこのコンセプト重視のマーケットプレイス型ECを、これからのECの新しいかたちの1つとして非常に注目しています。
レポート続編はこちらから⇒D2Cの次の一手。「マーケットプレイス型EC」成功の鍵は“コンセプト”と“共創”にあり|ウェビナーレポート(後編)

BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。