最終更新日 2024.4.5

ウェビナーレポート|AIで見える化!パーパス共有の実態~「味ぽん」が挑んだ、SNS“声”分析~ (後編)

2024年1月11日、パーパスの策定および実践をいかにビジネス成果に繋げるかをテーマにウェビナーを実施しました。課題を抱えている企業が多いなか、実際にブランドの新たな価値創出に取り組んだ現場担当者の事例紹介ということで、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。

ウェビナーでは、発売60周年のロングセラーブランド「味ぽん」のブランド担当者 株式会社Mizkanの伊山氏が登壇。大量のSNSデータをAIで分析することで、ブランドの潜在的な新たな価値を発見できたという「パーパス・アクション・サイクル 」を活用した取り組み事例について語っていただきました。

後編の本記事では、ウェビナーの内容から、パーパスに基づく企業活動をビッグデータ×AIで支援する「パーパス・アクション・サイクル」の「味ぽん」での活用事例、インナーブランディングでの応用事例などについてご紹介します。

登壇者(登壇順、敬称略) 

山田 聰(博報堂ブランド・イノベーションデザイン) 
和泉 舞(博報堂ブランド・イノベーションデザイン) 
伊山 裕人(株式会社Mizkan マーケティング本部) 

前編はこちら⇒ウェビナーレポート|AIで見える化!パーパス共有の実態~「味ぽん」が挑んだ、SNS“声”分析~ (前編)

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目次

「パーパス・アクション・サイクル」の活用~「味ぽん」の事例

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伊山 「味ぽん」は、来年、発売60周年を迎える、弊社の老舗ブランドです。最初は、鍋専用調味料としてスタートして、1980年代から、餃子や焼魚にかけるという提案を始めて、新たな市場を開拓しました。その後はやや飽和して苦戦した時期もありましたが、醤油代わりに使うというメニュー提案や新たな価値の掘り起こしをしたところ、再び売り上げを伸ばし、直近では、鶏のさっぱり煮、炒め物といったおかずが簡単においしくなるという訴求をして、多くの皆さまからご支持いただいています。

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そんな中、発売60周年を迎えるというタイミングで次の打ち手を模索していたところ、「パーパス・アクション・サイクル」のご提案をいただき、試験的に新たな価値の発見に取り組んだというわけです。本日は、その取り組みについてお話させていただきます。

まずは、パーパスの価値軸の規定で、X(旧twitter)の発話を一定期間収集し、AI分析にかけ、実際にワークショップも行いながら価値軸を規定していきました。

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具体的に言うと、まず何千件ものSNSの発話をAI分析にかけたところ、鍋に使える、大根と合うといった、味ぽんならではの発話の塊を確認しながら、どんな発話がレア度が高いのか、ユニークなのかを確認しながら分析を進めました。

たとえば、いつもの料理が美味しくなる、夕飯のレシピに助かる、お酒に合うといった価値だったり、CMで提案しているような、家族が喜ぶご飯が作れるとか、減塩でカロリーが低いといった健康に関する発話も塊として見られました。最終的なブランド価値としては、母の味、実家の味という、情緒的な価値に繋がっていることも今回の分析でわかったことです。

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このように、様々な発話の塊が出てきたわけですが、これらをどう読み解くかは、ワークショップで検討しました。現状の価値はもちろん、あえて捨てるべき価値は何か、新たに付け加えるべき価値は何なのか、を徹底的に吟味したわけです。

その結果、自分が作るお酒のつまみにちょうどいい、卵と合わせるとすごくおいしいというような、ライフハック的な発話の塊が結構なボリュームでありました。また、料理ができない人でもおいしくできる、超簡単な調味料という発話も、ある程度のボリュームで見つかり、今後付け加えていくべき価値として規定しました。

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次のステップは、これらの新しい価値軸が、どれぐらいのポテンシャルがあるのかを、AIで分析していきました。その結果、つまみを作る、自分が喜ぶという発話や、ライフハック的な裏技という発話のスコアが、かなり高く出てきて、今後の訴求の新たな示唆が得られました。さらに、このインサイトの探索を実際に行うために、スコアが高かった人を中心にインタビューも行っております。

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そのインタビューからは、2つの大きなインサイトが見えてきました。1つ目は、家にあるものでこれまでにない味ができる、新発見というインサイト。味ぽんと何かを組み合わせることで新しい味が楽しめる、そういった価値だと生活者が反応してくれる可能性があるのではないかという気づきが得られたわけです。

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さらに2つ目として、家族をお持ちの方でも自分流にアレンジする、自分が好きな味を味わいたいというインサイトが発見されました。自分のために作るという価値軸は、我々としても新鮮な気づきでした。

今回、「パーパス・アクション・サイクル」を活用してみての成果ですが、3点あります。まず、気づけていなかったブランドの価値に気付くことができたということ。2つ目は、スピード感のある分析ができたということ。そして3つ目は、AI分析の結果をしっかりと人の手で読み解きながら、組み合わせていくことによって、かなり手触り感のある価値軸の規定ができたということです。

AIはまだまだビジネスに活用されていないという現状があり、精度に半信半疑な方も多いと思いますが、人の目でしっかり読み解きながら分析すれば、新たな発見が得られると感じています。

山田 伊山さん、非常にユニークな取り組みをお話いただき、ありがとうございました。では、次に、この「パーパス・アクション・サイクル」がインナーブランディングでどのように活用できるのかを、和泉のほうからお話させていただきます。

インナーブランディングでの活用事例

和泉 「パーパス・アクション・サイクル」のソリューションはインナーブランディングでも活用できるものです。今回は、ある企業組織で実施した事例をご紹介させていただきます。このプロジェクトでは、ミツカンさんと同じようにまず、企業ブランドの価値軸の規定から行いました。その後、従業員向けにアンケートを行い、組織の中でのパーパスの浸透状況をアンケートの自由回答をもとに把握をして、AIで解析しました。

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そこから、戦略デザイン、アクションを創造していくわけですが、戦略デザインをする際に、エンゲージメントが高い従業員とそうでもない従業員を比較しながら、どこに課題があるのかを検証しながら立案しました。

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アクションの創造に関しては、博報堂のスタッフも入り、共創という形で進めましたが、パーパス浸透の課題がどこにあるのかを見ていく上で注視したのが、認知から理解、共感、自分ごと化、構造化、共有化、一体化、定着化という、いわゆる態度変容プロセスです。

今回の事例では、この中でも特に、理解・共感そして自分ごと化・構造化に関してパーパス浸透の課題があると捉えて、ここを狙いとしたインナーブランディングの施策を重点的に構想していきました。

最後に~登壇者ディスカッション

山田 本日のご説明は以上で終了ですが、ここで振り返りのディスカッションをさせていただきたいと思います。まずは伊山さんからお願いします。

伊山 これまで様々な調査やインタビューをやり尽くしてきていて、次の兆しを導き出すのが難しいという課題がありました。それが今回、「パーパス・アクション・サイクル」という新たなソリューションを活用することで、かなり解決できたのではないかと満足しています。

和泉 今まで、様々な企業のご支援をさせていただきましたが、やはりSNSの分析をしてほしいということはよく言われていました。膨大な量の発話を目検で見て分析したり、数量化して分析できるツールがでてもポジとネガの2軸でしかできないものでした。

それが今回、複数の価値軸でSNS上の発言や自由回答の発言を分析できるようになり、なおかつ気になるところがあれば元の発言に立ち戻ってインタビューまでできるソリューションが開発されたことで、膨大な量の質的データにおける生活者のインサイトを今まで以上に深掘りしやすくなったと感じています。

伊山 皆さんもChatGPTなどを使われたりするとは思うのですが、やはり半信半疑な部分はあると思います。それが、今回の分析のように、SNSの発話をAI分析にかけて、価値軸を整理したり、発話の塊を発見できたことで、AIに対する認識が変わりました。

それと、その分析結果を皆さんと一緒に目線合わせしながら議論し、価値軸を設定したことによって、新しい気づきが得られたのも大きな成果だったと思います。今後もAIの力を借りながら、それを人の目や手でどう料理していくかを考えていくことは、今後のビジネスにおいて非常に大事になってくるのかなと感じています。

和泉 味ぽんのようなロングセラーブランドは世の中にたくさんあると思うのですが、このようなブランドは企業も気が付いていないような価値が生活者側に生まれている可能性があります。そういった潜在的な価値は、通常の定量調査だけで掘り起こすのはとても難しいと思います。それが今回のソリューションのように、大量の質的データを分析することで新たな価値軸を発見できたというのは大きな魅力だと思います。今後は他の企業、例えばクルマブランドなどの価値の掘り起こしに活用いただけるのではないでしょうか。

山田 伊山さんも言及していましたが改めて、ブランディングにおいて、ListenとActionという2つの循環がとても大事になってくると思います。

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今回ご紹介させていただいた「パーパス・アクション・サイクル」というソリューションは、もちろん全ての企業の課題が解決できるわけではありませんが、ブランドや企業が世の中に価値を見出していく際に、社内や生活者の声を聞いて、それを行動に反映させることは重要ですし、考え続けなければいけないテーマだと思います。

伊山 実際、お客様の声を聞き続けることはできても、それをどう生かしたらいいかわからないというのが実情だったので、現在のブランド価値と新たな価値を探る上で、今回の取組みはとても有意義でした。

山田 まだスタートしたばかりの「パーパス・アクション・サイクル」ですが、今後もビジネス環境やテクノロジーの進化に合わせてアップデートしていく予定です。この機会にぜひ、多くの企業・ブランドにご活用いただければと思います。ご視聴いただいた皆さん、本日はありがとうございました。

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プロフィール

和泉プロフィール (1)和泉 舞

株式会社博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局

東京外国語大学卒、東京大学大学院博士前期課程修了。広告会社2社を経て2013年に博報堂入社。ストラテジックプランニング職として、トイレタリー・化粧品、家電、飲料・食品・たばこ、アパレル、外食産業、流通、半導体メーカーなどの業務経験が豊富。美容・ヘルスケア領域、食領域の業務実績が豊富であり、各種調査などを通じた生活者インサイト分析にも定評がある。2021年よりユーザー・イノベーション・ラボの立ち上げより参画。イノベーティブなユーザーと共創しながら商品開発の支援などを行っている。

 

yamada山田 聰

株式会社博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局

東京大学法学部卒業後、2006年に博報堂入社。制作職として、オーラルケア、食品、トイレタリー、出版、インフラ、官公庁など、多様な業種のコミュニケーション開発、クリエイティブ開発に従事。​2011年より博報堂内のブランディング専門ユニット「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」の前進組織に加入。金融、電子機器、情報サービス、電気通信、教育機関、公益財団法人、伝統工芸、地方自治体等の企業・商品のブランディング・プロジェクトに携わる。​ アジア太平洋広告祭ヤングロータスグランプリ、グッドデザイン賞など受賞。共著に『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』(早川書房)、『ビジネス寓話50選 物語で読み解く、企業と仕事のこれから』(アスキーメディアワークス)など。​2023年より、東京大学教養学部客員准教授​を務める。

 

伊山裕人伊山 裕人 氏

株式会社Mizkan
マーケティング本部 マーケティング企画1部 調味料2課

関西学院大学卒業後、2017年にMizkan入社。家庭用商品の営業職経験のち、2019年よりマーケティング担当として食酢カテゴリの商品施策を担当。新商品開発や「カンタン酢」のファンベースに基づく戦略立案などを経験のち、現在は「味ぽん」のブランド担当としてマーケティング戦略の立案と実行を担う。直近ではX(旧Twitter)での「#味ぽんと何かを漬けるぼくの100日間」企画を主導。趣味は陸上短距離。

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