最終更新日 2024.3.19

先進的なユーザーとの共創による商品開発とは ~三ツ矢サイダーにおけるユーザー・イノベーション活用~

ユーザー・イノベーションとは、生活者の独自の視点やアイデアをもとに、製品・サービスなどを開発・改良することを指しています。

身近な事例として、カリフォルニアの自転車愛好家が改造したものを自転車メーカーが製品化してヒットした、マウンテンバイクなどが知られています。ただし、こうしたユーザーの有望なアイデアが、企業の製品・サービスの開発に活かされるのはわずか5%とされています。

多くの企業が他社との差別化や新奇性のある価値提案に知恵を絞る中、どうすればユーザーの発案やアイデアを、製品・サービスの開発に活かせるのでしょうか。

本記事では、博報堂とともにユーザー・イノベーションによって新商品開発に取り組んだアサヒ飲料の実例を通じて、そのヒントを探ります。

製品やサービスの開発にお悩みの方
博報堂では、ユーザーとの共創型商品開発プログラム「博報堂ユーザー・イノベーション・プログラム」を提供しています。まずは代表的な事例やご活用のメリットをご覧ください。

目次

ユーザー・イノベーションがもたらす3つの効果とは?

従来、イノベーティブな製品・サービスを生み出すのは主に企業でしたが、ユーザー・イノベーションでは先進的なユーザーが、新奇性・独自性のある製品・サービスの生みの親となります。

また企業の中には、「ユーザーを開発段階から巻き込むことで、ファンを増やしたい」と考えるケースも少なくありません。先進的なユーザーとの共創によりイノベーションに取り組むことで、こうしたニーズを満たすことができます。

博報堂では、企業のブランディングやイノベーション支援を行う専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」において、クライアントとの共創によるイノベーション創出のあり方を探求してきました。その知見を活かし、新事業や新製品開発の共創プロジェクトを展開するために「ユーザー・イノベーション・プログラム」を提供しています。

ユーザー・イノベーションに取り組むことことで、企業には「製品効果」「発案者効果」「売上効果」の3つの効果が期待できます。

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製品効果

製品効果とは、ユーザーの視点から発案したアイデアが新奇性を生み、ユーザーにとっての便益をもたらす効果です。

発案者効果

発案者効果とは、ユーザーから生まれたアイデアという情報自体が売上や企業イメージの向上をもたらすことを意味します。

売上効果

そして、製品効果と発案者効果により、ユーザー・イノベーションで生まれた製品・サービスには企業内の新商品開発などの専門部署が考えたものよりも高い売上成果に結びつくことが期待できます。

 

博報堂では、ユーザーとの共創型商品開発プログラム博報堂ユーザー・イノベーション・プログラムを提供しています。生活者の声から新奇性や顧客便益の高い製品アイデアをつくり、プロジェクトを経験豊富なメンバーがファシリテート&並走します。⇒サービス紹介資料のダウンロードはこちら

ユーザー・イノベーションを実現するための2つの手法

ユーザー・イノベーションの手法には、主にリードユーザー法とクラウドソーシング法があります。

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リードユーザー法

商業的に魅力あるイノベーションを起こすリードユーザーを特定し、そこから新奇性のあるアイデアなどを得て製品・サービスの開発に活かす方法です。

リードユーザーとは、従来のリサーチの対象となるような平均的なユーザーではなく、極端に先進的なユーザーのことを指しています。自ら市場性の高い製品を開発している、またはそれに類するニーズを持ち、アクションをしているような人たちで、 さまざまな分野の専門家や研究者などが該当します。

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リードユーザーの特定には、ピラミッディング探索法とソーシャルメディア探索法があります。

ピラミッディング探索法

あるリードユーザーに対して「あなたよりも専門性の高いユーザーを紹介してください」というように依頼し、リードユーザー特性の高い人を次々に紹介してもらいながら見つけていく方法です。

紹介を繰り返すことで「より専門性の高いユーザー」に、ピラミッドを登るようにたどり着いていくことからピラミッディング探索法といわれます。

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ソーシャルメディア探索法

ソーシャルメディアを活用して、発信力とブランド愛を兼ね備えたリードユーザーを探す方法がソーシャルメディア探索法です。近年取り入れる企業が増加しています。

具体的な方法は、まずSNSを用いて熱量の高いユーザーを発掘し、ダイレクトメールなどで個別にコミュニケーションをとります。リードユーザーとして相応しいと判断した場合には、アンバサダーへの就任を要請します。

クラウドソーシング法

クラウドソーシング法とは、多数のユーザーからアイデアを募集し魅力的なものを選別する方法です。リードユーザー法は特定の専門家や研究者などを対象としますが、クラウドソーシング法は不特定多数を対象とするため対照的な手法といえるでしょう。

なお、ユーザー・イノベーションが活用できるのは、製品・サービスの開発だけではありません。次に示すように、さまざまな事業領域で活用できます。

  1. シーズ探索・開発
  2. 商品コンセプト開発
  3. 設計・製造
  4. ネーミング・パッケージデザイン
  5. コミュニケーション開発

 

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企業はユーザー・イノベーションをどう見ているか

博報堂がBtoC企業の企画開発者向けにユーザー・イノベーションの認知度や実施状況などの実態調査をしたところ、ユーザー・イノベーションという言葉を聞いたことがあると回答した割合は34.2%でした。また、ユーザー・イノベーションを実践している・実践したことがあると回答した企業は、さらに少ない11.6%にとどまりました。

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ユーザー・イノベーションの認知度は少しずつ高まっているものの、実践する企業はまだまだ少数派であることも事実です。しかし、ユーザー・イノベーションを実践した経験がある企業のうち、81.6%は効果を実感しているということもわかっています。「今後につながるようなアイデアのヒントを得られた」、「顧客ニーズの理解が進んだ」という声が多く、高い満足度を得られているようです。

06実際にユーザー・イノベーションを活用し、革新的な商品開発に成功した事例にはどういったものがあるのでしょうか。大手飲料メーカーのアサヒ飲料がユーザー・イノベーションによって取り組んだ、新コンセプトの「三ツ矢サイダー」の開発事例をご紹介します。

 

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【導入事例】アサヒ飲料における三ツ矢サイダーの新商品開発

アサヒ飲料のマーケティング本部では、常に生活者に寄り添い、デザイン思考をもって「共感」を得ることを大きな方針としています。

こうした方針のもと、アサヒ飲料では三ツ矢サイダーをはじめとしたロングセラー商品の開発において、常にユーザー離れや飽きを生じさせないよう、毎年期間限定商品を市場へ投入してきました。

新鮮なアイデアを採用した商品の開発に取り組んできたものの、社内で新商品のコンセプトを考えるだけでは、どうしてもアイデアが枯渇してしまう課題に直面。社内では思いつかないような斬新なアイデアが必要と考え、ユーザー・イノベーションに取り組みました。

アサヒ飲料がユーザー・イノベーションを実践した目的

アサヒ飲料がユーザー・イノベーションを取り入れた新商品開発に取り組んだ目的は2つあります。まずは、新商品の開発にあたって新たなアイデアを得ること。そして、もうひとつは、ユーザー・イノベーションの手法を探索しながら有効性を知り、社内全体へ横展開していくことでした。

新たなアイデアを得ることでは、新しいコンセプトと新しい容器についてのアイデアを得ることを目指し、下図の流れに沿って、リードユーザー法でユーザー・イノベーションに取り組みました。

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STEP1:プロジェクトチームの組成

はじめに、4〜6名程度の少人数によるプロジェクトチームを組成します。マーケティング部門と研究開発部門など複数の職域にまたがってチーム組成が行われる方が実施に着地しやすいと思われます。

STEP2:市場トレンド探索・リードユーザー探索のテーマ策定

市場トレンド探索では、飲料や食に関して近年の市場とトレンドをリサーチすると同時に、どういった分野の専門家をリードユーザーとして迎えるかを検討していきました。

STEP3:リードユーザー探索(ピラミッディング探索)

リードユーザーの探索・選定にあたっては、ピラミッディング探索法で候補者にインタビューを実施しました。最終的には10名程度の候補者を紹介してもらいインタビューを実施しました。

STEP4:コンセプト精緻化ワーク

リードユーザーから得られたアイデアや知見をもとに、開発する新商品のコンセプトを作成。ただし、この段階のコンセプトは完成形ではないため、さらにコンセプトを精緻化・ブラッシュアップしていく必要がありました。そのため、社内で設定したコンセプトをもとに、リードユーザーを再び3〜5名程度招集し、最終的な新コンセプトを練り上げていきました。

 

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ユーザー・イノベーションを通じて得られたもの

アサヒ飲料では、ユーザー・イノベーションの活用による新商品を開発中です。 それを踏まえて、ユーザー・イノベーション実践したことによる、さまざまなメリットや効果を実感しています。

スピード感と納得感のある商品開発

まずは、シーズやソリューションについてのアイデアや的確なアドバイスをリードユーザーから得られたことで、商品開発に活かしやすかったということです。また、プロジェクトには、研究所(技術部門)のメンバーも参加したことで、リードユーザーから新たな素材やコンセプトの提案があったときも、研究所のメンバーがすぐにリサーチし検討することができました。

スピード感を持って取り組むことができたこと、そして、リードユーザーがそれぞれの業界・分野の専門家でもあるため、説明の内容も分かりやすく納得感を得ながら新商品開発に取り組めたことが大きな効果だったようです。

また、従来のような生活者向け調査をもとにした商品開発だと、過去や現在の商品に関する意見をヒアリングすることはできますが、将来のトレンドや今後の動向といった予測までは困難なことが多いものです。

一方、リードユーザーは専門性や豊富な経験を活かし、専門家から見た未来予測ができます。商品開発における目のつけどころについての良し悪しや意見もヒアリングでき、メーカーとして自信につなげることもできたようです。

プロジェクトメンバーの専門性が向上

プロジェクトメンバーもさまざまな効果を感じています。アサヒ飲料では、プロジェクトがスタートした当初はメンバーの多くがユーザー・イノベーションに対して半信半疑だったといいます。というのも、リードユーザー候補をピラミッディング探索法でピックアップする段階で、自分たちの目利きや人選が本当に正しいのか、常に不安がメンバーの中にあったからです。

しかし、実際にピラミッディング探索を実践してみると、起点となるリードユーザーから別のリードユーザーを紹介してもらえるという手法が優れていると体感できたといいます。
一人のリードユーザーをきっかけに、さまざまな分野の専門家に広がっていき興味深い話を聞けたことで、プロジェクトメンバーの理解度や納得度も上がっていったとメンバーの成長も実感できたようです。

また、リードユーザーへのインタビューも回数を重ねるうちに、質問の切れ味や精度も上がり成長が見られました。メンバーからは、専門家にお話を聞くという貴重な経験が大きな体験価値につながり、成長の機会にもなったという声もあがってきたようです。

 

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まとめ:ユーザー・イノベーションにおいて博報堂が目指す役割は生活者共創のハブ

博報堂では「ユーザー・イノベーションとは生活者発想の進化形である」と位置づけており、解決策や価値提案も生活者とともに作り上げ、共創していきたいと考えています。「From C/to C」から「with C」を実現していくために、博報堂ブランド・イノベーションデザインは生活者共創のハブの役割を果たしていきます。

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その具体的な取り組みとして、ユーザー・イノベーション・プログラムによるコンサルティングや多様なプログラムを提供。さらに、博報堂では法政大学との共同で産学連携型コンソーシアム「USER INNOVATION LAB.」も立ち上げています。

和泉 舞(いずみ まい)

和泉 舞(いずみ まい)

株式会社博報堂 博報堂ブランド・イノベーションデザイン

東京外国語大学卒、東京大学大学院博士前期課程修了。広告会社2社を経て2013年に博報堂入社。ストラテジックプラニング職として、トイレタリー・化粧品、家電、飲料・食品・たばこ、アパレル、外食産業、流通、半導体メーカーなどの業務経験が豊富。美容・ヘルスケア領域、食領域の業務実績が豊富であり、各種調査などを通じた生活者インサイト分析にも定評がある。2021年よりユーザー・イノベーション・ラボの立ち上げより参画。イノベーティブなユーザーと共創しながら商品開発の支援などを行っている。

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