2023.12.08

ウェビナーレポート|“メノポーズ・マーケット”の未来 (前編)

2023年11月2日、女性の更年期に関する生活者調査から、女性たちが求めるヘルスリテラシーやインサイトなどの紹介、求められる商品やサービス、事業などを紹介するウェビナーを実施しました。 生活者の意識やSNS利用者の声を分析する、“ソーシャルリスニング”を通じた実態を明らかにする独自調査からは、事業に活用できる多くの示唆が得られ、多くの方にご視聴いただきましたので、その模様をお伝えします。  

ウェビナーでは、博報堂の社内横断プロジェクト「博報堂 Woman Wellness Program」と、TBWA HAKUHODOのマーケティング戦略組織「65dB(デシベル) TOKYO」から6名が登壇。 

女性の更年期が「ガマンの時代から、前向きな気づきの時代へ」と変化していることを、独自の最新調査から語っていただきました。 

登壇者(登場順、敬称略) 

  • 白根 由麻(博報堂 Woman Wellness Program)*進行 
  • 足立 紗希(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO)*進行 
  • 安並 まりや(博報堂 Woman Wellness Program) 
  • 前田 将吾(博報堂 Woman Wellness Program) 
  • 増田 実紗(TBWA HAKUHODO・65dB TOKYO 
  • 下萩 千耀(博報堂 Woman Wellness Program)    

目次

はじめに

白根 本日のウェビナーは、「博報堂 Woman Wellness Program」と、TBWA HAKUHODOのコンサルティングチーム「65デシベル」、2チーム合同で開催させていただきます。「博報堂 Woman Wellness Program」は、昨今、注目されている女性の健康課題に着目したプログラムで、女性ひとり一人がより良く生きていける社会を目指して情報発信等を行いつつ、企業の事業開発やサービス開発等の支援も行っていこうと、2022年の12月に立ち上げました。

足立 そして今回ご一緒させていただくのが、TBWA HAKUHODOの「65デシベル」です。私達はSNSの利用者の声を分析するソーシャルリスニングという手法を用いて、ユーザーボイスから生活者インサイトを読み解き、企業や社会の課題解決に取り組むコンサルティングチームです。

白根 今回のテーマは「“メノポーズ・マーケット”の未来」です。今、女性の活躍推進ということが言われていますが、同時に女性特有の健康問題が社会課題にもなっています。これは、当事者の女性たちだけではなく、その周囲にいる男性も含めて理解を深めなければいけないテーマであると考えています。

これまで、女性の生理や出産に関することはいろいろ取り上げられてきていますが、更年期というテーマは、まだ深掘られていない領域です。今回は10月18日の「国際メノポーズデー」を起点に実施した調査の結果をご報告させていただきます。これを機に、今の女性たちのニーズ等を把握していただくと同時に、これからの市場の兆しを一緒に考え、皆様のサービス開発や事業開発にお役立ていただければと思います。

博報堂では、女性の健康課題に関して、事業構想からサービス開発・広告コミュニケーション支援まで一気通貫で支援する「博報堂 Woman Wellness Program​」 を提供しています。⇒サービス紹介ページはこちら

イントロダクション~更年期とは?  

安並 まりや(博報堂 Woman Wellness Program) 

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私からは、更年期というテーマの背景と、なぜ今注目すべきなのかという理由についてお話したいと思います。

まず、更年期というのは女性の閉経前後の5年間の時期を指すと言われています。日本の女性の平均的な閉経は50歳ということになりますので、45歳から55歳の間、その間に急激に女性ホルモン、特にエストロゲンが下がってきます。これは全ての女性に起こる体調の変化で、それを更年期と呼んでいます。

身体が火照るホットフラッシュが主な症状ですが、だるいとか、眠れないとか、イライラするとか、様々な症状が現れます。それらの症状により日常生活を送るのが負担と感じる状況、これを更年期障害と呼んでいます。更年期障害の症状は、肉体面から精神面まで多岐にわたると同時に、人によっても違う症状を抱えるというような点が特徴でもあります。

なぜ今、更年期が社会的注目を集めるのか

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更年期が社会的注目を集めつつある背景には、大きく分けて3つあると捉えています。

まず1つが「世界的潮流」です。第4波フェミニズムムーブメントにより、女性の健康課題は無視できない状況になっていて、生理の貧困やフェムテックなど、ニュースでもいろいろ取り上げられていますが、その世界的な潮流は日本においても顕著になってきています。

2つ目の背景は「働く女性の増加」です。30年前の社会では、多くの女性が結婚や出産を機に仕事を辞めていました。ところが現在は、働き続ける女性がマジョリティーになっています。これはつまり、健康課題含め、女性の姿が社会の中で見える化しやすくなったということを意味します。

そして3つ目は、「経営課題」です。ある統計では、働く女性の不調による経済的な損失は年間6.3兆円と報告されています。特に管理職など重要なポジションを任されたり、女性のキャリアのピークが更年期と重なることから、企業が真剣に女性の健康課題に対処しないと、重大な経営の損失を抱えることになると言われています。

一般的に更年期にある女性は、40代~50代と言われていて、1730万人もいます。ところが医療機関の受診率を見ると非常に低いという実態や、更年期を“我慢すれば、いずれ過ぎ去っていく嵐のようなもの”と認識している人が多く、潜在的なニーズが見えにくいのが現状です。

更年期をめぐる2つの課題

今、更年期には2つの課題があります。1つは「スティグマ(間違った認識、偏見)の課題」です。調査でも、“母親に相談したら病気でないから我慢しろと言われて悲しい気持ちになった”とか、“職場の同僚や上司になかなか相談できない”という声が多く、更年期が理解されないもの、ちょっと恥ずかしいものと捉えられている実態が浮かび上がりました。

そしてもう1つが、「自覚化の問題」です。40代になると、どんな女性にも不調が出ますが、その原因がストレスなのか、忙し過ぎるからなのか、加齢なのか、ホルモンの低下なのか、特定できないという声が多く聞かれました。このように更年期であるという自覚が遅れることが、治療しないという女性が多い要因ではないかと考えます。

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今回は、2つの調査結果をお話したいと思います。1つは更年期に関する意識や行動に関するアンケート形式の定量調査。もう1つが、更年期に関するソーシャルリスニングで、過去と現在のソーシャルメディア上の発話を比較しながら、更年期の現在地を探っていきたいと思います。これらの調査結果から、自覚化のきっかけを可視化することで、メノポーズ・マーケット活性化のヒントを探っていければと思います。

更年期調査vol.1 ~生活者意識と付き合い方~

前田 将吾(博報堂 Woman Wellness Program)

定量調査の概要をお話させていただきます。調査の対象は、30歳から69歳の女性で、更年期を自覚している方と、かもしれないと思う「もしかして層」の方々のサンプルを確保した上で本調査を行っています。

本日お話する内容は3つです。1つ目が「更年期による不調の概況」、2つ目が「更年期自覚に至るまでの現状と課題」、そして3つ目が「更年期の対処状況とうまく付き合うためのポイント」です。以下、順番にお話しさせていただきます。

更年期による不調の概況

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ボリュームゾーンである40歳から59歳の方々を見ますと、更年期による不調を自覚していて、医師の診断を受けたという方は全体のわずか4.9%。医師には言われていないけれどもおそらくそうだと自覚をしている方々は21.4%でした。

この2つの層を今回は、更年期を自覚している方々と定義したいと思います。足し上げると26.3%になり、推定ですが全国で449万人います。さらに、“自覚していないが、もしかするとそうかもしれないと感じている”層が22.3%で、自覚層と“もしかして層”を足すと全体の48.6%、829万人にまで拡大されます。この“もしかして層”が多いところが、更年期における特徴のひとつと考えています。

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次に、このような方々が具体的にどういったことに悩んでいるのかについてです。目立っているのが“顔がほてる・汗をかきやすい”という、いわゆるホットフラッシュと言われる症状です。6割以上の方々がこれを経験しています。それ以外には“寝つきが悪い”、“疲れやすい”、“肩こり腰痛手足の痛み”といった症状を経験している人が50%近くいます。

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では、それらの人々が、具体的に日常生活でどういうところに困っているのかを見てみると、トップが、“怒りや気持ちのコントロール”といった情緒的なもので、続いて、“体重コントロールやダイエット”、家事、スキンケア・ヘアケアなどが上位を占めています。他には、“家事や家族の面倒見る”とか、フルタイムの出勤など、仕事に関する足かせも挙げられていて、冒頭に話した経済損失といった現実もリアルに見えてきています。

更年期に至るまでの現状と課題

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更年期を自覚したことでどんな変化があったのかを聞くと、「年齢上仕方ないと割り切れた」とか「いつか良くなると思えた」「原因がわかって安心」といったように、前向きというかポジティブな変化が見受けられました。

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その一方で、不調を感じてから自覚に至るまで、なかなかスムーズにいかないという現状も見受けられます。具体的なデータを見ると、自覚まで半年以上かかっていている人が6割もいます。また、自覚に至る過程は、人によって大きなバラつきがあることが、体験者の声からもわかりました。

早期自覚者の特徴

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ここまで、更年期の自覚化が難しいという現状をお話しましたが、逆に自覚が早かった人にはどんな特徴があったでしょう。

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1つは「初期症状」です。早く自覚した人の半数が、最初に不調を感じた症状がホットフラッシュだったと答えています。一方、寝つきが悪いとか疲れやすい、イライラするといった症状から始まると、それがすぐに更年期と結びつけられない人が多いこともわかりました。

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2つ目は「リテラシーの高さ」です。更年期の不調を感じる前からのリテラシーについてヒアリングを行うと、早期自覚者ほど更年期に関するリテラシーが高いという傾向がわかりました。中でも高い項目は「更年期の仕組み」と「治療について」です。具体的には、更年期が女性ホルモンの低下によって起きることや、発症の年齢に関する知識。治療については、病院での治療が可能であるということ、ホルモン補充療法に保険が効くという情報を自覚前から知っていたことがわかりました。

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こうしてみると、多様な更年期の症状の認知が、早期自覚のきっかけになると思われますし、リテラシーを備えることは、その後の付き合い方を考える上でも重要になってくることがご理解いただけるのではないでしょうか。

更年期対処状況とうまく付き合うためのポイント

ここからは、対処の状況とうまく付き合うためのポイントについてお話したいと思います。

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更年期による不調への対処の有無について聞いてみると、自覚者の47%、もしかして層の19%弱が不調に対処していることがわかりました。具体的な対処方法としては、食事、睡眠、運動などがあり、漢方などもある程度いますが、全体の中ではどれも10%台でそれほど高くなく、一番多かったのが“あてはまるものがない”という回答でした。

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しかも、更年期とうまく付き合えていると答えたのは、わずか9%の人でした。ボリューム的には少ないですが、うまく付き合えている人の特徴を検証してみましょう。

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まず1つ目の特徴は、「カラダをよく知る」ということです。具体的には、食生活の改善、腸内環境の改善、血流の改善などを心がけていることがわかりました。

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2つ目の特徴は「自分時間を楽しむ」です。日常生活で大事にしていることを聞くと、「できない自分を責めないようにする」とか「無理せずに仕事をする」、「大変なときは家事を休む」といった声が上がっています。他にも「リフレッシュできる外出や旅行をする」というように、気分が前向きになることを実践していることがわかりました。

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そして、3つ目の特徴は、「周囲の人に頼る」ということです。とくに配偶者・パートナーの存在は大きく、日頃の相談はもちろん、家事や育児の分担など、さまざまな形で協力してもらっている実態がわかります。また、仕事の同僚や上司の理解も不可欠で、産業医のサポートも同様に、更年期とうまく付き合う上では重要になっているようです。

以上、更年期とうまく付き合えている人の3つの特徴を見てきましたが、更年期に対して、どういう意識をもっているのかを探ると、うまく付き合えている人は、前向きな意識の持ち主であると言えます。

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その意識の内容を探ると、“更年期は一人で悩む時代ではない”、“更年期の不調は誰にも訪れるライフステージだ”と思ってる人が特に高くなっています。加えて、“女性の閉経後は、新たな人生を考えるターニングポイントだ”と答えている人もかなり多く、そういう女性たちの姿勢をサポートしていくことも今後、求められてくるのではないでしょうか。

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以上の検証から、マーケットの拡大仮説とヒントを探っていきたいと思います。まず、「カラダをよく知る」というところにつきましては、食を中心とした生活提案などが効いてくると思われます。

次に「自分時間を楽しむ」ということに関しては、“無理をしない”“責めない”だけでなく、気分を前向きにすることをするために、心を癒やすような商品やサービスの提供、大人のリラクゼーションといった選択肢が増えてくるといいのではないかと思われます。

「周りに頼る」というところにつきましては、家族・企業に向けたサポートをしていくことが求められてくると考えます。

最後に、これらの調査結果から、更年期に関するニーズと、想定される具体的なサービスについてまとめてみました。

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まず、“更年期に関する正しい情報が身近に知ると良い”、“もっと簡単に気付けるといい”というニーズに対しては、中高年女性の身体の変化や更年期・閉経についてのエデュケーション=本・ネット・メディアによる情報発信等の「気づきを促す情報」サービスが求められるでしょう。みんなが触れられるような場所で発信をしていくことが、重要なポイントです。

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 “更年期をしっかり治療できる医師が増えるといい”、“もっと気軽に医師に相談したい”というニーズに対しては、専門医による遠隔治療やオンラインカウンセリングといった「医療アクセス」に関するサービスが求められます。実際、学会が中心となって、医療機関のリストが作られているので、それを参照にしてもよいでしょう。

“更年期の不調を感じたときに仕事量や働き方を調整できるといい”という声や、“もっと気軽に周りの人に話せるといい”というニーズに対しては、更年期についての理解を促すための職場での研修や体調に応じた働き方の提案、あるいは更年期について気軽に話せるオンラインサロンなどの「心身のサポート」を目的としたサービスが必要になってくるでしょう。

最後、“中高年からの体を前向きにサポートしてくれる商品やサービスが欲しい”という声や、“更年期の対処法について、もっと多様な選択肢がほしい”というニーズに対しては、ホットフラッシュだけでなく様々な症状に対応したケア商品や各種支援サービス、不調を緩和するための生活提案など、「ポジティブセルフケア」を促すサービスが求められてくると思われます。

 

レポート後編はこちらから
⇒ウェビナーレポート|“メノポーズ・マーケット”の未来 (後編)

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BIZ GARAGE 編集部

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