2025年3月6日に実施されたウェビナー「AI エージェントと暮らす時代の購買行動」のレポート後編をお届けします。前編では、AIエージェントの普及によって生活者の買物体験がどのように進化していくのか、未来の生活者像をもとにした予測をご紹介しました。
後編となる本記事では、その調査から導き出されたAI時代の新購買行動モデル「DREAM」の5つのフェーズについて詳しく解説します。さらに、購買プロセスが「ファネル構造」から「ループ構造」へと変わるなかで、企業が追うべき新たなKPIやマーケティング戦略のあり方についてご紹介します。
前編はこちら⇒AIエージェントはどう買物を変えるのか?博報堂買物研究所が予測する「2040年の購買行動」|ウェビナーレポ―ト(前編)
目次
新購買モデル「DREAM」の5フェーズ

飯島 以下、それぞれのフェーズについて詳しく説明したいと思います。
Dialogue(対話)

生活者はAIエージェントとの対話を繰り返す中で、自分自身の好みや価値観、ライフスタイルを本音で共有していくようになります。
例えば、旅行の計画に関する会話、体調に関する会話のほかに、直接買物に関係ない話も相談対象になり得ます。こうした何気ない会話が後の買物に繋がることもあり、AIエージェントは本音を言えるパートナーとして、購買行動に重要な役割を果たします。
リアルな人間が相手じゃないからこそ、見栄を張らずに相談ができるわけです。特に悩みケア系の領域は、買い方が大きく変わると予測されます。
Recommended(推奨)
生活者はAIエージェントから、自分の潜在的なニーズを満たすような商品のおすすめを受け取れるようになります。選択肢だけではなく、そもそも買うこと自体を提案されるケースも出てきそうです。
ここで重要なのは、ただ一方的にエージェントからの提案を受けるだけではないことです。提案されたものの中から主体的に選び抜くようになるのでは?と考えています。
AIエージェントからの提案では、 自分の身の丈に合わなかったり、体調に合わなかったり、自分自身にとってベターではない選択肢が提案されることはなくなります。失敗するリスクが低いので、今よりも直感に従った選択が可能になるでしょう。
また推奨理由を尋ねたり、その回答結果で気になるポイントを深掘りしたり、生活者は自分の可能性を広げるために、AIエージェントとの対話を繰り返すことになります。
Experience(体験)

VRやARの発達で、リアルな場でのお試し体験に加えて、デジタルでのお試しが普及していきます。
例えば、匂いや味、触り心地までをデジタル上で再現することも可能になるかもしれません。店頭に行かなくても気軽に体験できるので、試すという行為のハードルが下がるでしょう。リコメンドされたものをただ検討するだけでなく、まず試してみるという買物感覚が身に付きます。
また、パーソナライズが進み、試着や試食という体験をしながら、商品を自分好みにカスタマイズできるようになります。
ただし、直近の調査では、「体験」フェーズでのAIエージェントのニーズはそれほど高くないことがわかりました。今後は、買い物工程すべてを見渡して、適切な箇所にAIエージェントのサポートを入れていくことが重要になると思われます。
Assurance(確信・承認)

生活者は、リアルとデジタルを行き来しながら、対話・推奨・体験のループを繰り返して、失敗の心配がなくなったところで購入の決断をするようになります。加えて、信頼できるAIエージェントであれば、関心の薄い買物に関しては、対話と承認で済ませてしまうこともあるかもしれません。
2016年の私たちの研究では、情報があふれる中、買物にかけられる時間が減少して、欲しいものをなかなか選べないという生活者のジレンマを報告しました。こうした背景を考えても、AIエージェントによる購入サポートは確実に有用だと思われます。
ただ、最新の調査結果では、AIエージェントだけに任せるのではなく、最後は自分自身で買物を決めたいと思っている生活者が約7割いることがわかり、今後は、そんなインサイトを踏まえたコミュニケーションが求められると考えます。
Management(管理)

AIエージェントにどこまで自分の買物情報や商品使用時の感情データを共有するのか、それを口コミ的にどこまで一般公開するのかを決定するフェーズが新たに登場します。
情報はあればあるだけ、精度の高いレコメンデーションが可能なのですが、これは情報流出へのリスクや懸念心との見合いになってきます。
またアフターフォローにも、AIエージェント活用の余地は大きいでしょう。商品の使用方法だけでなく、修理の仕方、期限のリマインドなど、幅広い領域でアフターフォローが実現し、AIエージェントは購入後も顧客接点であり続けます。
調査結果によると、この情報の共有に関して魅力を感じる人はまだ半数にとどまっています。その一方で、説明書の中から知りたい情報をピンポイントで教えてくれたり、メンテナンスのタイミングを教えてくれるヘルプ機能に対するニーズは高いようです。
DREAMモデル時代に予測される生活者の変化
飯島 次は、DREAMモデル時代に予測される生活者の変化を4つ紹介します。
探し方は「検索」から「対話」へ

具体的なワードで検索している現在から、これからは「対話」を通してAIエージェントと共同して、自分の“欲しい”を引き出していくようになるでしょう。そうすることで、生活者は買物で新しい発見ができ、満足感を高めていきます。
商品選択は「自分で決める」から「AIエージェントと決める」へ

膨大な情報を自分で比較検討する今の買物から、嗜好や行動データをもとに、AIエージェントから的確な提案をしてもらえることで、買物の効率がアップします。つまり、より直感的な判断が可能になります。
商品のお試しは、「リアル」+「バーチャル」での体験へ

直接店舗に行かないと、リアルな感覚で試すことのできなかったものでも、VRなどの発達で家の中でも試せるようになります。つまり試すハードルが下がります。また、事前に試して買っているので、買ってからのガッカリ件数が少なくなっていくと思われます。
顧客の声は、「一部」から「みんな」へ

今までは、書き込みをしてくれた一部の人の口コミしか閲覧できなかったのが、個人の情報の提供範囲に応じて、AIエージェントへのフィードバックが公開されていきます。そのため、今よりももっと多くの人の声を参照できるようになるでしょう。同時に、一部の生活者の極端な声に惑わされづらくなります。
DREAMモデルの2つのループ構造 ―生活者ジャーニーに起きる変化

飯島 DREAMモデルの世界観では、AIエージェントは、単なる自動ロボットではありません。生活者の可能性を開いてくれるパートナーです。そのため生活者にとって、AIエージェント選びが非常に重要になってきます。
生活者の変化に伴い、企業のマーケティング業務にも大きな変化が訪れます。例えば、これまでは認知率、検索率、購入率などをKPIに設定してマーケティング戦略を練るファネル構造(AIDMA/AISAS)が一般的でした。
D(対話)R(推奨)E(体験)を繰り返すループ
それが、DREAMモデルではループ構造になります。具体的には、2つのループが想定され、1つ目はD(対話)、R(推奨)、E(体験)を繰り返すループです。
第1のループにより、その商品を知らなくても買われるケースが増え、AIエージェントとのやり取りの中で確信が生まれれば購入するケースも出てくるかもしれません。同時に、体験の重要性も高まっていくでしょう。
D(対話)M(管理)を往復するループ
2つ目はD(対話)とM(管理)を往復するループです。第2のループでは、情報が共有されればされるほど、次回の対話に登場する頻度・確率が高まります。
このように、ループ構造に変わることで、企業のマーケティング活動にとってのKPIも変わってきます。

例えば、D(対話)のフェーズでは、商品の名前がAIエージェントとの対話の中で出てくる割合=会話生起率や、R(推奨)では試用率、E(体験)では試用時間、A(確信・承認)では提案承認率、M(管理)ではフィードバック率などが、新たなKPIになっていきます。
もちろん、AIエージェント自体の活用も重要になっていきます。AIエージェントの生活者への提供形式には、既存のプラットフォームに乗っかるプラットフォーム型と、個社提供型(メイク選び、旅行プラン、献立サポートなど)の2パターンが想定され、今後は共存しながら、生活者の買物行動をリッチにしていくでしょう。
「DREAM」を実現するためのソリューション

垂水 ここまで、AIエージェントと暮らす時代の新購買モデル「DREAM」を紹介させていただきましたが、企業にとっても新たな課題が生まれてきます。
まず「『DREAM』モデルを自社の活動にそのままあてはめられるか」「この先どのようなサービスが必要になるのか」といった、未来のマーケティング戦略に関する課題です。
そしてもうひとつは「リアルとデジタルでどのような顧客体験を用意すればいいのか」「自社でもAIエージェントを活用したいが何から始めたらよいのか」といった、AIエージェント実装に関する課題です。
そこで、今回は、こうした課題を解決するためのソリューションを2つ紹介させていただきます。

「FUTUER SHOPPER COMPASS」

カテゴリーごとの個別視点を踏まえ、未来のジャーニー開発や新サービスを構想するコンサルティングサービスです。
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カテゴリーの兆しを見つけるステップ1(Discovery Signs)
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兆しから買物行動を描くステップ2(Shopper Journey)
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描いた未来をカタチにするステップ3(Future Building)
という、未来の“売る”を、理想の“買う”から考えるプログラムになっています。
「バーチャル販売員」

生成AIでリアル販売員の個性を反映した接客・対話を支援するサービスプロトタイプです。博報堂独自のツールで、リアルの販売員をアバター化してバーチャル販売員を作り、リアルとバーチャルのハイブリッドUXで、より良い顧客体験を実現します。
バーチャル販売の活用は、販売だけでなく、フロントデスク、コールセンター、美容部員など、多様なユースケースを想定しています。
プロフィール
写真左から、飯島 拓海、生島 岳、垂水 友紀
垂水 友紀
株式会社博報堂 博報堂買物研究所
2016年博報堂中途入社。化粧品、日用品、飲料、健康食品など消費財のマーケティング戦略、商品開発、サービス開発に従事。 2022年より現職。「買物インサイト」を起点に、新しい買物を生み出すソリューションを提案・実行する実践的研究所を運営。
飯島 拓海
株式会社博報堂 博報堂買物研究所
市場調査会社を経て、2022年博報堂入社。 EC生活者、パーパス買い、リテールメディア、値上げと節約など幅広いテーマの調査研究および、ショッパーマーケティング領域のソリューション開発を担う。
生島 岳
株式会社博報堂 博報堂買物研究所
2023年に博報堂入社。前職における食品や飲料のリテール営業、ブランドのマーケティングの実務経験など多岐にわたる経験を活かしながら、現職ではショッパーインサイト研究とトレードマーケティング領域のソリューション開発に従事。
BIZ GARAGE 編集部
ビジネスをとりまく環境の大きな変化により、最適な手立てを見つけることが求められる現代。
BIZ GARAGEのコラムでは、生活者の心を動かし、ビジネスを動かすために、博報堂グループのソリューションや取り組みのご紹介、新しいビジネスの潮流などをわかりやすく解説しています。


